認知行動療法の考え方を日常で生かす方法|記録と小さな行動の例(後編)
認知行動療法の基本的な考え方を理解すると、自分でも試してみたいと感じる方もいるかもしれません。一方で、何から始めればよいのか分からない、全部を書こうとして手が止まってしまうということも少なくありません。
そんなときは、過去の出来事をすべて振り返ろうとするのではなく、一つの場面だけを取り上げることから始めてみます。
この記事では、認知行動療法の考え方を参考にしながら、日常生活の中で自分の反応を整理する方法を紹介します。なお、ここで紹介する内容は、認知行動療法の考え方を理解するためのセルフケアであり、医療機関などで行われる正式な認知行動療法とは異なります。つらさが強い場合や、一人で整理することが難しい場合は、無理に続ける必要はありません。
まず、一つの場面だけを選ぶ
最近ずっと調子が悪い、仕事のことを考えるとつらいなど、大きなテーマを一度に整理しようとすると、何から書けばよいのか分からなくなることがあります。そのため、まずは一つの場面だけを選びます。
例えば、
- 朝礼で質問に答えられなかった
- 会議で言い間違えをした
- 上司から声を掛けられた
など、短い時間で区切れる出来事を選ぶと整理しやすくなります。ここで大切なのは、最もつらい出来事を選ぶ必要はないということです。今振り返っても負担が少ない場面や、これなら思い出せそうと感じる出来事から始めて構いません。迷う場合は、昨日の会議、朝礼、帰宅前など、短い題名だけを書いて終えても大丈夫です。まずは一つの場面に絞ることで、そのとき自分に何が起きていたのかを整理しやすくなります。
場面選びの目安
場面を選ぶときは、次のようなポイントを意識すると取り組みやすくなります。
- 数分〜数十分程度の短い出来事
- 今振り返っても負担が少ない場面
- 良い・悪いを判断しなくてよい出来事
- 一度に一つだけ選ぶ
無理に深く思い出す必要はありません。今日は題名だけ書く、今はまだ書かないといった選択も大切です。
出来事・考え・気分・身体・行動を短く記録する
場面を選んだら、その出来事を出来事、考え、気分、身体の反応、行動の五つに分けて整理してみます。それぞれを長く書く必要はありません。一語や一文だけでも十分です。また、よく分からないと感じる項目は空欄でも構いません。記録することが目的ではなく、自分の反応を少しずつ整理することが目的だからです。例えば、会議で言い間違えをした場面であれば、次のように整理できます。
- 出来事:会議で用語を一つ言い間違えた
- 考え:信用を失ったかもしれない
- 気分:不安、落ち込み
- 身体:肩がこわばる、胸がドキドキする
- 行動:その後は発言を控えた
このように分けてみるだけでも、出来事とそのとき浮かんだ考えは別のものだと気づけることがあります。なお、記録を書くことで苦しさが強くなる場合は、途中で中断して構いません。記録は他の人の目に触れにくい場所で保管し、今日は書かないという選択も大切です。
記録は正解探しではない
記録を始めると、正しく書かなければと感じることがあります。しかし、この記録に正解はありません。思い出せる範囲で書けば十分ですし、空欄があっても問題ありません。また、考えと気分が混ざってしまったとしても、最初から完璧に分けられる必要はありません。
まずは、自分の中でどのような反応が起きていたのかを知ることが目的です。
事実と推測を分けてみる
記録ができたら、次は事実と推測を分けて考えてみます。私たちは出来事が起こると、その場でさまざまな考えが浮かびます。しかし、その中には実際に確認できることと、まだ確認できていないことが混ざっている場合があります。
例えば、会議で言い間違えをした場面であれば、
事実
- 会議で用語を一つ言い間違えた
- 自分で訂正した
推測
- 全員に能力がないと思われた
- 信頼を失ってしまった
というように整理できます。
ここで大切なのは、推測を間違いと決めつけることではありません。そうかもしれないと感じる気持ちがあっても構いません。そのうえで、実際に確認できていることとまだ分からないことを分けてみることで、状況を少し客観的に見られることがあります。また、自分の考えだけではなく、
- 職場の忙しさ
- 周囲の状況
- 体調や睡眠不足
- 初めて経験する仕事だった
など、自分以外の要因が影響している可能性もあります。一人で責任を抱え込まず、さまざまな要素が重なっていることも意識してみましょう。
別の見方を一つ検討する
事実と推測を整理したら、別の見方があるとしたら何だろうと考えてみます。ここで大切なのは、無理に前向きな考え方へ変えることではありません。例えば、会議で言い間違えたから信用を失ったと感じたとしても、
- 自分ですぐに訂正できた
- 周囲はそれほど気にしていなかったかもしれない
- 誰でも言い間違えることはある
など、他の可能性が浮かぶこともあります。もちろん、やっぱり不安だと感じることもあるでしょう。その場合は、無理に考えを変えようとする必要はありません。他にも可能性はあるかもしれないと保留するだけでも十分です。認知行動療法では、一つの考えだけに決めつけず、選択肢を増やしていくことを大切にしています。
別の見方が浮かばないときの質問
別の見方を考えようと思っても、すぐに思い浮かばないことは珍しくありません。そのようなときは、次のような質問を自分に投げかけてみる方法があります。
- 実際に確認できていることは何だろう
- まだ分かっていないことはあるだろうか
- 他の人が同じ状況だったら、自分は何と声を掛けるだろう
- 自分以外に影響している要因はあるだろうか
これらの質問にすぐ答えが出なくても構いません。まだ分からないと保留したままでも大丈夫です。認知行動療法では、答えを急いで出すことよりも、自分の反応や考え方を少しずつ整理していくことが大切にされています。
次にできる小さな行動を一つ選ぶ
考え方を整理したあとは、次に何をするかを考えてみます。ここでも大切なのは、大きく変えようとしないことです。毎日頑張ろう、苦手なことを克服しようと決めるよりも、今の自分にできそうな小さな行動を一つ選ぶほうが続けやすい場合があります。
例えば、
- 次の会議の前に5分だけ資料を見返す
- 分からないことを一つだけ質問してみる
- 昼休みに5分だけ外を歩く
など、これならできそうと思える大きさから始めてみます。もし負担が大きいと感じる場合は、
- 時間を短くする
- 回数を減らす
- 相手や場所を変える
など、さらに小さく調整しても構いません。また、今日はやらない、少し休む、誰かに相談するという選択も大切です。実践することだけが目的ではありません。自分に合った方法を選べることも、認知行動療法の考え方の一つです。
例えば、毎日30分歩くと決めても、忙しい日が続くと負担になってしまうことがあります。そんなときは、行動を小さく調整してみます。時間を短くする、人に頼る、回数を減らすなど、自分が続けられそうな大きさに変えることも一つの方法です。
また、その日の体調や生活の状況によっては、休むことが必要な日もあります。予定どおりにできなかったとしても、自分を責める必要はありません。続けられる形を探しながら、自分に合った方法を見つけていくことが大切です。
3日から1週間を目安に振り返ってみる
記録や小さな行動を始めたら、数日から1週間ほど続けてみて、どのような変化があったのかを振り返ります。ここで確認したいのは、成功したか失敗したかではありません。
例えば、
- 気分の変化はあったか
- 少し気持ちが楽になる時間はあったか
- 続けやすかったことは何だったか
- 負担が大きかったことは何だったか
など、自分に起きた変化をそのまま確認してみます。変化がなかったとしても、それは大切な気づきです。今の方法が合わなかったのかもしれませんし、今は休息が必要な時期なのかもしれません。
一度で答えを出そうとせず、自分に合った方法を少しずつ見つけていくことが大切です。
結果よりも、気づいたことを大切にする
振り返るときは、できたことやできなかったことだけで判断しないようにします。例えば、
- 仕事中は緊張しやすいことに気づいた。
- 睡眠不足の日は不安が強くなりやすかった。
- 少し散歩をした日は気分が落ち着いていた。
このような気づきも、自分を理解するための大切な情報です。認知行動療法では、完璧な記録を作ることよりも、自分の反応に気づき、次の選択につなげることを大切にしています。続けることが負担になる場合は、一度休んでも構いません。無理なく続けられる方法を見つけることが、長く取り組むためのポイントになります。
一枚で使える記録テンプレート
ここまで紹介した内容は、次のような流れで一枚にまとめられます。
| 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|
| ① 場面 | 朝礼で質問された |
| ② 出来事 | 質問にすぐ答えられなかった |
| ③ 浮かんだ考え | 迷惑を掛けたかもしれない |
| ④ 気分 | 不安、焦り |
| ⑤ 身体の反応 | 胸がドキドキした |
| ⑥ 行動 | その後は発言を控えた |
| ⑦ 別の見方 | 緊張していただけかもしれない。質問は一つだけだった |
| ⑧ 次の小さな行動 | 次回は朝礼前に内容を5分だけ確認する |
すべての項目を毎回埋める必要はありません。書けるところだけでも十分ですし、途中で終わっても問題ありません。また、記録を書くこと自体が負担になる場合は、無理に続ける必要はありません。自分のペースを大切にしながら取り組んでみましょう。
一人で続けることが難しいときは相談することも大切
認知行動療法の考え方は、日常生活の中で役立つ場面があります。一方で、気持ちの落ち込みや不安が強いときは、一人で整理しようとすると苦しくなることもあります。記録を書くたびにつらさが強くなる場合や、生活への支障が続いている場合は、無理に続ける必要はありません。医療機関や相談機関など、専門家と一緒に取り組むことで、自分では気づかなかった視点が見つかることもあります。
セルフケアだけで抱え込まず、必要に応じて相談することも、自分を大切にする選択肢の一つです。
まとめ
認知行動療法の考え方は、自分を変えるためではなく、自分を理解するための手がかりになります。まずは一つの場面を選び、出来事・考え・気分・身体の反応・行動を整理してみることから始めてみましょう。そのうえで、事実と推測を分けて考え、別の見方や次にできる小さな行動を検討していきます。すぐに変化が現れなくても問題ありません。
大切なのは、正解を探すことではなく、自分にどのような反応が起きているのかを知り、無理なく続けられる方法を見つけていくことです。そして、セルフケアだけでは難しいと感じるときは、一人で抱え込まず、専門家へ相談することも大切な選択肢です。
基本から確認したい方
→ 認知行動療法とは?考え・気分・行動の関係をわかりやすく解説(前編)
記録の考え方や自動思考、出来事・考え・気分・身体の反応・行動のつながりをもう一度確認したい方は、基礎編から読むと理解しやすくなります。
iこころクリニック日本橋編集部
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