適応障害と向き合うときの記録のはじめ方|考えを整理する最初の一歩(実践編)
仕事のことを考えると気持ちが重くなる。休みの日も頭から離れない。眠りが浅い日が続いている。そんな状態が続くと、「自分の受け止め方を変えればいいのかもしれない」と思うことがあるかもしれません。
適応障害と診断されて休んでいる方も、まだ受診はしていないけれど気になっている方も、いま起きていることを整理する手立てのひとつに、認知行動療法の考え方をもとにした「記録」があります。この記事では、今日から試せる記録の始め方と、記録では変えられない部分の見分け方をご紹介します。
適応障害は、原因となる状況があって起きます(=考え方だけの問題ではない)
適応障害とは
適応障害は、はっきりとしたストレスの原因があり、それによって心身のバランスが崩れて、日常生活や社会生活に支障が出ている状態を指します。厚生労働省の『こころの耳』用語解説『適応障害』では、環境の変化によるストレスが個人の順応力を越えたときに生じる、情緒面と行動面の不調として説明されています。
きっかけになる出来事は、異動や転職、業務内容の変化、職場の人間関係など、人によってさまざまです。同じ出来事でも負担の感じ方は違うため、周りが平気そうに見えることが、自分にとっては大きな負担になっていることもあります。
不調は気分だけに出るとは限りません。遅刻が増える、連絡を返すのが億劫になる、これまで手をつけられていた作業を後回しにしてしまう。こうした行動の変化として先に表れることもあります。自分では怠けているように感じやすいところですが、状態のあらわれ方のひとつです。
「自分の考え方が弱いから」ではありません
つらさが続いていると、「もっとうまく受け流せる人もいるのに」「自分が弱いからだ」と、原因を自分の性格に探してしまうことがあります。
けれど適応障害は、原因となる状況があってはじめて起こるものとされています。出来事や環境の側にきっかけがあることが前提になっている、ということです。考え方のクセがまったく関係しないわけではありませんが、それだけで説明のつくものではありません。
厚生労働省の『うつ病の認知療法・認知行動療法 患者さんのための資料』にも、性格や心の弱さのせいではない、とはっきり書かれています。むしろ、責任感が強く、うまく手を抜けずに一人で抱え込んでしまいやすい方のほうが、負担が重くなりやすいという指摘もあります。
この記事でご紹介する記録も、考え方を正すためのものではありません。どんな場面で負担が大きくなっているのか、原因になり得る状況はどこにあるのかを整理して、見えるかたちにするためのものです。目を向ける先は、自分の性格ではなく、自分が置かれている状況のほうです。
認知行動療法の考え方でできること(整理/記録/小さな行動)
状況・考え・気分を整理する
つらさが続いているとき、頭の中では「起きた出来事」と「そのとき浮かんだ考え」と「気分」がひとつの塊になっていることがあります。認知行動療法では、これをいったん分けて眺めてみます。
たとえば、提出した資料に修正指示が入った場面なら、出来事は「修正指示が入った」、浮かんだ考えは「また期待に応えられなかった」、気分は「落ち込み」「焦り」といった具合です。分けてみると、出来事そのものと、それをどう受け取ったかは別のことだと気づけることがあります。
厚生労働省の『うつ病の認知療法・認知行動療法 患者さんのための資料』では、思考・気分・行動・身体の反応という4つの領域が、それぞれ関連し合っていると説明されています。塊のままだと、どこから手をつければいいのかが見えません。分けておくと、いま動かせそうなところが1つくらいは見つかることがあります。
なお、ここでご紹介するのは考え方を理解するためのセルフケアであり、医療機関で行われる認知行動療法や、診断・治療の代わりになるものではありません。
記録してみるとどう変わるか
分けた内容は、頭の中だけで整理しようとすると、すぐに元の塊に戻ってしまいます。短くても書き出しておくと、同じ考えが繰り返し出てきていることに、あとから気づきやすくなります。気分には0〜100のような数字を添えておくと、日によって強さが違うことも見えてきます。
繰り返し出てくる考えに印をつけると、その向きに偏りがあることに気づく場合があります。また、気分そのものが続いているときに出やすい考えの向きとして、自分について・周りについて・これから先について、という3つが挙げられています。印をつけた考えがどこに向いているかを眺めるだけでも、繰り返しの形は見えてきます。
同じ資料では、気分そのものが変わらなくても、次の対応や行動を思いつければそれでよい、という考え方が示されています。記録は気分をよくするための作業というより、自分に何が起きているかを見えるようにする作業だと考えると、取り組みやすくなります。
書く量は一語ずつでも、埋まらない項目があっても構いません。
認知行動療法の考え方でできないこと(環境の変更・休養・薬物療法の代わりにはならない)
記録をつけたり、考え方を整理したりしてできるのは、いま自分に何が起きているかを見えるようにするところまでです。そこから先には、記録では動かないものがあります。
ひとつは環境です。業務量や勤務時間、職場の人間関係そのものは、記録をつけても変わりません。負担の元がそこにある場合は、上司や人事に相談する、働き方を調整するといった、環境の側への働きかけが必要になることがあります。
もうひとつは休養です。疲れが重なっている状態は、考え方を整理することでは戻りません。まず休むことが先になる場合もあります。
そして、つらさが強いときには、薬物療法を含めた治療が検討されることもあります。記録がその代わりになるわけではありません。
厚生労働省の『こころの耳』用語解説『適応障害』でも、適応障害の回復には、環境を調整することが重要だと説明されています。記録がその調整を代わりにやってくれるわけではありません。ただ、どこにいちばん負担がかかっているのかがはっきりすれば、何を変えられそうかを考える材料にはなります。
書いてみてもつらさが軽くならないとき、それは書き方が足りないからではありません。記録では届かないところに原因がある、ということもあります。
相談してみようと思っても、通院の時間を取るのが難しい、外に出るのがつらい、ということもあると思います。
オンライン診療
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難しい方へ
オンライン診療での医師への相談も選択肢です。
<今日ためす1つ>1場面だけ記録してみる
そのうえで、記録にできるところから始めるなら、まずは1つの場面だけで十分です。
今日ためす1つ:1場面だけ記録してみる
- 今日いちばん気持ちが動いた「1場面」だけを選ぶ
- 出来事/浮かんだ考え/気分(0〜100)/体の感じ/したこと を書く
- 3日ためて、繰り返し出てくる考えに印をつける
状況別の次の一歩
同じ「つらい」でも、きっかけや、いまいちばん困っていることは人によって違います。当てはまりそうなところだけ読んでいただければ大丈夫です。
転職や異動がきっかけになっている場合
異動や転職のあとから調子が変わった、という場合です。朝の支度をしながら「あの決断は正しかったのか」と考えていたり、前の職場ならこうしていたのに、と比べてしまったり。
こうした考えが浮かぶこと自体は、環境が大きく変わったあとに起こりやすいことで、それ自体がよくないわけではありません。ただ、仕事にまつわる悩みだからといって、仕事中に浮かぶとは限りません。むしろ、手が空いた時間や、通勤の途中、朝の支度をしているときのように、業務から離れた瞬間に出てくることのほうが多かったりします。業務上の出来事だけを記録しようとすると、いちばん繰り返している考えが記録に残らないのはそのためです。書き留める場面は、その考えが実際に浮かんだ瞬間を選んでみてください。
考えが同じところに戻ってきて止まらない場合
考えても答えが出ないのに、気づくと同じところに戻っている。布団に入ってから、あの場面が何度も再生される。日中より、夜や休日など手が空いた時間に強くなることがあります。この状態のときは、記録しようとするとかえって考えが増えてしまうこともあるので、書き方に少し工夫が要ります。
職場の環境そのものが負担になっている場合
業務量や勤務時間、人間関係そのものが変わっていない場合です。記録で状況が見えるようになっても、負担の元は残ったままです。何をどう整理するかより、何を変えられるかを先に考えたほうが早いこともあります。
誰かに話すところから始めたい場合
書くより話すほうが整理しやすい方もいます。書こうとすると手が止まるのに、人に説明していると自然に言葉が出てくる。そういう経験があるなら、そちらのほうが合っているのかもしれません。ひとりで書き続けることが目的ではありません。
適応障害という診断名が気になる場合
診断名そのものが気になって、記録どころではないこともあると思います。自分の状態に名前がつくのかどうかがはっきりしないうちは、そちらが先に気になるのは自然なことです。
記録を続けても変わらないとき/相談を検討する目安
3日ほど書いてみても、何も見えてこないことがあります。書くこと自体がしんどくて、続かないこともあります。どちらも、うまくいっていないわけではありません。記録は合う人と合わない人がいますし、先ほど触れたように、記録では届かないところに原因があることもあります。
書いていて、整理されるより気持ちが重くなるほうが強いなら、そこで止めて構いません。無理に続けることが目的ではありません。
相談を考えるときの目安は、いくつ当てはまるかではありません。その状態が続いているかどうかと、生活に影響が出ているかどうかです。
たとえば、眠りの浅さや食欲の変化が続いている。これまで普通にできていた作業に、以前より時間がかかるようになった。休みの日に休んでも、回復した感じがないまま次の週が始まる。こうした状態が続いているなら、記録の書き方を工夫することよりも、いまの状態を誰かに話してみるほうが先かもしれません。
どのくらい続いたら、という目安としては2週間ほどがひとつの区切りになりますが、日数を数えることが目的ではありません。いつからだったか思い出せないくらい続いている、という感覚のほうが実際的です。
自分の状態を自分で判定する必要はありません。話しながら整理していくうちに、何にいちばん困っているのかがはっきりしてくることもあります。
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よくある質問
Q. 記録は毎日書かないといけませんか
毎日でなくて構いません。ここでご紹介している記録は日記ではなく、気持ちが動いた場面をひとつ取り上げて書くものです。書けない日があっても、それで意味がなくなるわけではありません。書くこと自体が負担になっているなら、いったん止めても大丈夫です。認知行動療法の基本的な考え方については、厚生労働省「こころの耳」の解説もあわせてご覧ください。
Q. 認知行動療法の考え方を実践すれば適応障害は治りますか
記録や考え方の整理だけで適応障害が治る、とは言えません。適応障害は原因となる状況があって起こるものなので、その状況がどうなっているかが大きく関わります。厚生労働省の『こころの耳』用語解説『適応障害』でも、回復には環境の調整が重要だとされています。記録は、いまの状態を把握したり次にできることを考えたりする助けにはなりますが、治療の代わりになるものではありません。
Q. 記録しても気持ちが変わらないときはどうすればいいですか
気持ちが変わらなくても、書いたことが無駄になったわけではありません。厚生労働省の「うつ病の認知療法・認知行動療法 患者さんのための資料」でも、気分そのものが改善しなくても、次の対応や行動プランを思いつけたならそれでよい、という考え方が示されています。それでもつらさが続くようであれば、記録では届かないところに原因があることも考えられます。
Q. 対面が難しい場合、オンライン診療でも同じように相談できますか
通院の時間が取れない、外出がつらいといった事情がある場合、オンラインでの診療という選択肢があります。ただし、厚生労働省の「オンライン診療について 国民・患者の皆様へ」にもあるとおり、すべての方が利用できるわけではなく、医師が適切でないと判断した場合は対面での診察に切り替わります。初診から処方できるお薬にも制限があります。対応しているかどうかは医療機関によって異なるので、まずは問い合わせて確認するのが確実です。
まとめ
適応障害は、原因となる状況があって起こるものです。受け止め方が甘いから、性格が弱いから、という話ではありません。厚生労働省の患者さん向け資料にも、性格や心の弱さのせいではないと書かれています。
記録は、その状況のなかで自分に何が起きているのかを、見えるかたちにする方法のひとつです。ただし、環境そのものを変えたり、休養や治療の代わりになったりするものではありません。書いてみてうまくいかなかったとしても、それは書き方の問題ではありません。
まずは、今日の1場面から。それだけで十分です。3日書いてみて何も見つからなくても、それは失敗ではありません。自分には合わないやり方だったとわかったこと自体が、ひとつの手がかりになります。
ひとりで整理するのが難しいと感じたときは、相談するという選択肢もあります。はじめてご相談される方には、受診の流れをご案内しています。
参考文献
厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法 患者さんのための資料」(PDF) https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf
厚生労働省「こころの耳」用語解説「認知行動療法」 https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1666/
厚生労働省「こころの耳」用語解説「適応障害」 https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1653/
厚生労働省「オンライン診療について 国民・患者の皆様へ」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38226.html
iこころクリニック日本橋編集部
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