認知行動療法とは?考え・気分・行動の関係をわかりやすく解説(前編)
認知行動療法という言葉を聞いたことがあっても、考え方を前向きに変える方法だと思っている方は多いのではないでしょうか。しかし、認知行動療法は単に考え方を変えることだけを目的としたものではありません。
出来事をどのように受け止めたか、そのときの気分や身体の反応、そして行動は互いに影響し合っています。認知行動療法では、それらのつながりを整理します。例えば、事実と感情を分けるなどがあります。
この記事では、認知行動療法の基本的な考え方や、出来事・考え・気分・身体反応・行動の関係について解説します。
なお、この記事では仕組みを理解することを目的としており、医療機関などで行われる正式な認知行動療法とは異なります。日常で取り入れられる記録方法や小さな行動については、後編で紹介します。
認知行動療法とは
認知行動療法(CBT)は、考え方だけを変える方法ではありません。私たちは何か出来事が起こると、その出来事をどのように受け止めたかによって気分や身体の反応が変わり、その後の行動にも影響が及ぶことがあります。また、行動や身体の状態が変わることで、考え方や気分に影響することもあります。
認知行動療法では、このような複数の要素のつながりを整理しながら、現在抱えている困りごとや目標を確認し、現実的な対処方法を一緒に考えていきます。本人だけが努力すればよいという考え方ではなく、専門家と協力しながら進めていく構造化された心理療法です。
一方で、日常生活の中で自分の反応を振り返ることは、認知行動療法の考え方を理解するきっかけになります。ただし、こうしたセルフケアは正式な治療そのものではありません。まずは基本的な考え方を知ることから始めてみましょう。
出来事・考え・気分・身体反応・行動は影響し合う
日常生活の中で、同じ出来事でも人によって受け止め方が異なることがあります。例えば、会議で発言したあとに上司から後で少し話そうと声を掛けられたとします。ある人は改善点を教えてもらえるのかもしれないと考えるかもしれません。一方で、何か失敗したのではないかと感じる人もいるでしょう。このように、出来事そのものだけでなく、その場で浮かんだ考えによって気分や身体の反応、行動は変わることがあります。
また、身体の疲れや睡眠不足が続いていると、不安を感じやすくなったり、普段なら気にならないことを深刻に受け止めたりすることもあります。反対に、小さな行動を変えたことが気分や考え方に影響する場合もあります。
このように、出来事・考え・気分・身体反応・行動は、一方向ではなく互いに影響し合っています。認知行動療法では、それぞれを切り離して考えるのではなく、全体のつながりを整理しながら現在の困りごとを理解していきます。
5つの要素を一つの場面で見る
5つの要素を理解するときは、長い期間ではなく、一つの場面だけを思い浮かべると整理しやすくなります。
例えば、
- 出来事:会議で質問にうまく答えられなかった
- 考え:「失敗したと思われたかもしれない」
- 気分:不安、落ち込み
- 身体反応:胸がドキドキする、肩に力が入る
- 行動:その後は発言を控えた
というように分けて考えることができます。ここで大切なのは、「どれが正しいか」「考え方が間違っているか」を判断することではありません。まずは、それぞれがどのようにつながっているのかを知ることが、認知行動療法の基本になります。
なお、実際にこれらを記録する方法や整理の仕方は、後編で詳しく紹介します。この記事では、5つの要素が互いに影響し合っていることを理解するところまでに留めます。
自動思考とは、その場で浮かぶ考えやイメージ
出来事が起きた瞬間に、意識しなくても頭に浮かぶ考えやイメージを自動思考と呼びます。
例えば、
- 失敗したかもしれない
- 迷惑を掛けてしまった
- また同じことになるのではないか
といった考えが、一瞬で浮かぶことがあります。自動思考は、誰にでも起こる自然な心の働きです。
認知行動療法では、自動思考を良い・悪いと判断することが目的ではありません。その場でどのような考えが浮かび、その考えが気分や身体反応、行動にどのような影響を与えているのかを整理しながら理解していきます。
自動思考だけがつらさの原因というわけではなく、職場環境や人間関係、体調などさまざまな要因も影響します。そのため、本人の考えだけに原因を求めるのではなく、全体を見ながら考えていくことが大切です。
認知行動療法で用いられる主な方法
認知行動療法では、一つの方法だけを使うのではなく、困りごとや目標に応じてさまざまな方法が用いられます。ここでは代表的な方法を簡単に紹介します。具体的な進め方や記録方法については、後編で解説します。
コラム法・活動記録・問題解決の概要
・コラム法
出来事やそのときに浮かんだ考え、気分などを整理し、別の見方ができないかを検討する方法です。自分の反応を客観的に整理したいときに用いられます。
・活動記録
一日の活動や生活リズムを振り返り、日々の過ごし方や気分との関係を整理する方法です。どのような活動が気分や生活リズムに影響しているのかを把握する際に役立ちます。
・問題解決
現在抱えている困りごとを整理し、実際に取り組めそうな対処方法を一緒に考えていく方法です。一度に解決しようとするのではなく、取り組めそうな選択肢を検討していきます。
これらはそれぞれ目的が異なります。どれか一つが優れているというものではなく、困りごとの内容に応じて活用されます。また、日常で取り組む小さな行動と、医療機関などで行われる構造化された治療は同じものではありません。その違いを理解したうえで、自分に合った方法を検討していくことが大切です。
治療としての認知行動療法とセルフケアは異なる
ここまで紹介してきた内容は、認知行動療法の基本的な考え方を理解するためのものです。一方で、医療機関などで行われる認知行動療法は、専門家と相談しながら現在の困りごとや目標を確認し、複数回にわたって振り返りを重ねながら進める構造化された心理療法です。
この記事で紹介しているように、自分の反応を整理したり、出来事・考え・気分・身体反応・行動のつながりを知ったりすることは、日常生活で取り入れられるセルフケアの一つといえます。しかし、それだけで正式な認知行動療法と同じ効果が得られるものではありません。
認知行動療法を試してみたいと感じた場合は、まず基本的な考え方を知り、自分に合った方法を専門家と相談しながら検討することも選択肢の一つです。
つらさが続くときは専門家への相談も選択肢
自分の考えや気持ちを整理することは役立つ場合がありますが、すべての人が一人で取り組む必要はありません。
例えば、
- 気持ちの落ち込みや不安が続いている
- 睡眠や食欲に大きな変化がある
- 仕事や学校、家庭生活に支障が出ている
- 記録することでかえって苦しさが強くなる
といった場合は、無理に続ける必要はありません。
また、認知行動療法に興味があっても、一人では整理するのが難しい、どう進めればよいか分からないと感じることもあるでしょう。そのようなときは、医療機関や地域の相談窓口などへ相談することも大切な選択肢です。記録を続けることよりも、自分の安全や生活を優先してください。
なお、差し迫った危険がある場合には、一人で抱え込まず、通常の相談窓口とは別に緊急の支援につながることが重要です。
基本を理解したら、無理のない範囲で記録してみる
認知行動療法では、考え方だけを変えようとするのではなく、出来事・考え・気分・身体反応・行動が互いに影響し合っていることを理解するところから始まります。また、その場で自然に浮かぶ自動思考も、良い・悪いと判断するのではなく、自分の反応を知る手がかりとして捉えます。
まずは、こんなふうにつながっているのかと仕組みを理解するだけでも十分です。実際に自分でも整理してみたいと思った方は、次の記事で紹介する方法を参考に、無理のない範囲で取り組んでみてください。
一方で、今はまだ難しいと感じる場合は、無理に進める必要はありません。休むことや相談することも、自分を大切にする選択肢の一つです。
まとめ
認知行動療法は、考え方を無理に前向きへ変えるための方法ではありません。出来事・考え・気分・身体反応・行動のつながりを整理し、自分の反応を理解しながら、現実的な対処方法を見つけていく心理療法です。この記事では、その基本的な考え方を紹介しました。次の記事では、認知行動療法の考え方をもとに、日常生活で無理なく取り組める記録方法や小さな行動の考え方を紹介します。
次の記事
→ 認知行動療法の考え方を日常で生かす方法|記録と小さな行動の例(後編)
認知行動療法の基本的な考え方を理解したら、次は日常生活の中で無理なく取り組める方法を見ていきましょう。出来事・考え・気分・身体の反応・行動を整理する方法や、別の見方を検討する考え方、小さな行動の決め方を紹介しています。
iこころクリニック日本橋編集部
当院の診療内容や精神科・心療内科に関する情報をもとに、患者さまのお役に立つ情報を編集・発信しています。


